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第二章 降下

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-11-27 17:39:46

 潜水艇「蒼鯨」は、深澄が長年使っている小型の潜航艇だ。

 全長五メートル、球形の耐圧殻に推進器と照明、各種センサーを装備している。一人乗りの設計で、最大潜航深度は五千メートル。深澄の相棒であり、命を預ける器でもある。

「気圧チェック、問題なし。酸素供給、正常。通信システム、良好」

 蒼真の声が通信機から流れてくる。

「深澄、本当に三千まで行くのか? 今日は特に海況が不安定だ。急な引き返しも考慮しろよ」

「分かってる。何かあったらすぐ連絡する」

 深澄は操縦席に身を沈めた。計器を確認し、バラストタンクの調整をする。

「それじゃあ、行ってくる」

「無事に戻れよ」

 蒼真の声に、いつもとは違う緊張があった。彼も、今日の潜航が特別だと感じているのかもしれない。

 バラストタンクに海水が流れ込み、蒼鯨はゆっくりと沈み始めた。

 最初の数十メートルは、光が豊かだ。浮島の下に広がる人工の根がある。そこには魚たちが群れをなし、海草が揺れている。人間が作った生態系。百年以上の時間をかけて、海と共生するための努力の結晶。

 百メートルを過ぎると、光が弱くなる。青が深くなり、視界が狭まっていく。照明を点けると、プランクトンが光の中を舞った。

 二百メートル。光が届く限界。ここから先は薄明帯。わずかな光が差し込むが、植物が光合成できるほどではない。ここに住む生物たちは、上から降ってくる有機物を食べるか、互いを捕食するしかない。

 深澄は計器を見ながら、母のことを考えた。

 母は海を怖がっていたと言った。だが同時に、深澄が海を好きになったことを喜んでいた。その矛盾は何だったのか。

 おそらく、母も何かを知っていた。キサラギのこと。あの珊瑚のこと。そして、写真に写っていた女性──深澄の祖母のこと。

 だが母は語らなかった。語れなかった。

 なぜ?

 五百メートル。完全な闇。蒼鯨の照明だけが、周囲の海を照らしている。時おり、発光する生物が視界を横切る。クラゲ、魚、小さなエビのような生き物。彼らは自ら光を放ち、暗闇の中で生きている。

 深澄は照明を絞った。外部照明を最小限にすると、海そのものが放つ微かな生物発光が見えてくる。それは星空のように、闇の中にまたたいている。

 美しい、と深澄は思った。

 鷹臣が言った言葉を思い出す。「暗闇の中の、命」。まさにその通りだ。

 千メートル。水圧計の針が着実に上がっていく。ここは中深層。太陽光は完全に届かない。温度も急激に下がる。だが、生命は存在する。適応し、進化し、生き延びる。

 通信機が鳴った。

「深澄、そろそろ千五百に達する。状態は?」

「問題なし。蒼鯨も順調」

「分かった。だが、二千を超えたら特に注意しろ。あの深度は予測不能な海流がある」

「了解」

 深澄は降下を続けた。

 千五百メートル。ここは深海の入口。生物の数は減るが、いなくなるわけではない。巨大なイカ、透明な魚、奇妙な形のエビ。彼らは深海のプレッシャーの中で、独自の進化を遂げている。

 深澄は思う。人間も同じではないか、と。

 陸地が沈み、生活が一変したとき、人類も適応を迫られた。浮島を作り、海と共生する文化を築いた。そして死者を海に還すという習慣も、その適応の一つだった。

 海は母だと、古代の人々は言った。すべての生命は海から生まれた。ならば海に還るのは、帰郷なのかもしれない。

 二千メートル。

 突然、蒼鯨が揺れた。

「深澄! 海流だ! すぐに方向を調整しろ!」

 蒼真の声が緊張している。計器を見ると、予期せぬ横流れが発生している。深澄は落ち着いてスラスターを操作し、艇を安定させた。

「大丈夫、制御できてる」

「無理するな。引き返してもいいんだぞ」

「もう少しだけ」

 深澄は降下を続けた。

 だが、海流は収まらなかった。むしろ強くなっている。まるで、何かが蒼鯨を引っ張っているかのように。

 そして、深澄は気づいた。

 この海流の方向──それは「沈黙の庭」がある方角だ。

 偶然だろうか?

 いや、と深澄は思った。偶然ではない。

 胸元の珊瑚の欠片が、熱を帯びている。それは脈打つように、一定のリズムで温かくなったり冷たくなったりしている。

 まるで、心臓のように。

 まるで、何かを呼んでいるように。

「深澄! おい、深澄! 聞こえてるか!」

 蒼真の声が遠い。

「航路が逸れてる! 今すぐ浮上しろ! そっちは禁止区域だ!」

 深澄は知っていた。だが、手が動かなかった。

 いや、動かしたくなかった。

 この海流に身を任せたら、どこへ行くのか。何が待っているのか。ずっと探していた答えが、そこにあるような気がした。

「ごめん、蒼真」

 深澄は小さく呟いた。

「私、行かなきゃいけない」

「何? 深澄、何を言って──」

 深澄は通信機のボリュームを下げた。そして、スラスターを海流の方向に向けた。

 蒼鯨は加速した。

 闇の中を、深く、深く。

 二千五百メートル。

 三千メートル。

 そして──

 光が見えた。

 最初は信じられなかった。こんな深度に、光源があるはずがない。

 だが、それは確かにそこにあった。

 淡く、青白く、ときおり紫色に変化する光。それは点在しているのではなく、広範囲に広がっていた。まるで、海底に都市があるかのように。

 深澄は息を呑んだ。

 それは珊瑚礁だった。

 だが普通の珊瑚礁ではない。珊瑚の一つ一つが光を放っている。生物発光ではない。もっと安定した、持続的な輝き。

 蒼鯨が近づくと、その規模が分かってきた。

 巨大だった。

 幅にして数百メートル。高さも数十メートルはある。珊瑚は複雑に入り組み、まるで建造物のような構造を作っている。廊下があり、部屋があり、広場がある。

 そして深澄は理解した。

 これは船の形だ。

 珊瑚が、沈んだ船の形を模倣している。いや──記憶している。

「キサラギ……」

 深澄は呟いた。

 これが、百五十年前に沈んだ移民船。これが、八百七十三名の人々と共に海底に消えた船。

 そして、深澄の祖母が乗っていた船。

 蒼鯨をゆっくりと珊瑚礁に近づけた。照明を落とすと、珊瑚自身の光がよりはっきりと見えた。白、青、紫、そして──紅。

 紅い珊瑚が、珊瑚礁の中心部にあった。

 それは他の珊瑚よりも大きく、まるで心臓のような形をしていた。脈打つように、光の強弱が変化している。

 深澄の胸の中の欠片と、同じリズムで。

 蒼鯨を珊瑚礁の近くに停泊させた。深澄は潜水服を最終チェックし、エアロックに入った。

「行ってくる」

 誰に言うともなく呟き、外部ハッチを開いた。

 深海の水が、ゆっくりと侵入してくる。気圧が均等になり、ハッチが完全に開いた。

 深澄は海の中へ泳ぎ出した。

 潜水服の照明が、周囲を照らす。だがそれは必要なかった。珊瑚の光で、十分に見えた。

 近づくと、珊瑚の表面に細かい模様があることが分かった。それは単なる自然の造形ではなかった。何かの文字のような、記号のような、あるいは──記憶のような。

 深澄は手を伸ばした。

 珊瑚に触れた。

 その瞬間──

 世界が変わった。

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